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仙台高等裁判所 昭和35年(ネ)61号 判決 1964年5月27日

控訴人(附帯被控訴人) 布施繁太郎

被控訴人(附帯控訴人) 国

訴訟代理人 清水忠雄 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人は被控訴人に対し金二五万七、〇九六円およびこれに対する昭和三三年八月一三日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人は被控訴人に対し別紙供託金目録記載の各供託金を引渡せ。

控訴審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

被控訴人はその主張の本件係争地は被控訴人所有の青森県下北郡田名部町(現在のむつ市以下同じ)大字関根字高梨川目六番の二の一部であると主張するのに対し、控訴人はこれを争い、同土地は控訴人所有の周町大字北関根の内休場三四六番の二七一号の一部であると主張するので、先ずこの点を検討する。

一、いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし五、第一一号証(控訴人は以上の甲号各証の成立に関する従前の自白を当審において撤回するけれども、右自白が真実に反し且つ錯誤に出たものであることを首肯せしめるに足る証拠がないから、右自白の撤回は許されない。)原審証人月井福一の証言により成立を認める同第二号証、当審証人加藤信一の証言により成立を認める同第六号証、当審証人佐々木幸一の証言により成立を認める同第一四号証の一ないし三、当審証人山田稔雄の証言により成立を認める同第一五号証、当審証人新井至の証言により成立を認める同第一三号証の一ないし二四(とにその一五、一六)、第一七号証の一ないし五、同第一九号証の一、二に原審証人月井福一、畑中二太郎、田中末吉、原審および当審証人加藤信一、当審証人山田稔雄、佐々木幸一、新井至の各証言、当蕃における鑑定人有馬正継の鑑定の結果、並びに原審および当審における各本件係争地現場検証の結果を綜合すれば、本件係争地はもと内務省所管の官有地たる青森県下北郡田名部町大字関根字高梨川目六番の二草山西一四三町九反三畝一歩の内にあつたところ、右六番の二は明治二二年三月二〇日皇室財産増殖のため御料地に無償編入されたので、爾来帝室林野管理局等御料地関係当局において御料地大字関根字高梨川目六番の二の一部としてこれを管理することになつたが、明治三一年七月から同三三年一〇月にかけて隣接民有地所有者立会のもとに境界を踏査、測量し、確定した境界(隣接民有地所有者らによるその確認は明治三八年中に得た。)の要所要所には界標を設置し、その内東側の六一町歩余を四九林班い小班、西側の二七町歩余を五〇林班いおよびろ小班として管理経営を続け、大正六年頃から逐次同地内に多量の杉、松等を植栽し、下刈、蔓切、除伐、防火線の設置等森林の保護育成に当つて来た。ところが昭和二二年三月三一日付をもつて財産税物納により国(大蔵省)が右六番の二の所有権を取得することになるや、林政統一の方針のもとに直ちに大蔵省から農林省に所管替えになり、以来青森営林局(むつ営林署)が旧御樹地時代の四九林班い小班の部分を南関根第一国有林一四九林班い小班、同じく五〇林班いおよびろ小班の部分を同国有林一五〇林班いおよびろ小班として(別紙図面表示のとおり)その管理、経営に当つている土地であることを認めることができ、原審証人菊地已之吉、西酉沢光子、中島よし(第一、二回)、西沢重、沢畑留太郎、山田兼吉、菊池政美、当審証人中里安太郎、吉田みつの各証言並びに原審における被控訴人本人の供述中右認定に反する部分は借信し難い。控訴人提出の乙第一〇、第一一号証も前出甲第一五号証、第一九号証の一、二、当審証人山田稔雄の証言によりその成立を認め得る第一六号証と同証言に徴するならば右認定の維持資料とはなつても、これを覆えす証左とはならないし、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

二、のみならず、成立に争いのない甲第四、第五号証、第一八号証の一、二に原審証人杉山吉松、村中喜之助、山田長太郎、気仙才太郎、鹿内林之助の各証言、前出鑑定人有馬正継の鑑定の結果並びに当審における字限図、土地分割届と分割図および現場の各検証の結果を綜合すれば、控訴人が本件係争地はその一部であると主張する前記字北関根の内休場三四六番の二七一号山林の現地は本件係争地ではなくてその東方の一部に境を接する別紙図面表示の7ないし14、チ、チ´、チ´´´、7の各点を順次直線(ただしチ、チ´、チ´´´、7間は高梨道路の西側に沿う線)で連結して囲んだ地域であることが認められるのであつて、前出措信じない証拠を除いては右認定を妨げるものはない。

そうすると、本件係争地は被控訴人所有の大字関根字高梨川目六番の二の一部であると見るべきであるから、この点を争う控訴人に対しその確認を求める被控訴人の請求は正当であつて、これを認容すべきである。

そこで次に被控訴人の損害賠償並びに供託金引渡の請求について判断する。

一、右請求の内金五七万三三八一円の損害賠償およびこれに対する昭和三二年一二月一二日以降の遅延損害金の支払を求める部分については当裁判所も原判決と同様の理由で該請求部分は正当であつて、これを認容すべきものと判断するので、この点に関する原判決の理由(原判決五枚目表冒頭以下同裏五行目まで)をここに引用する。

二、いずれも公文書であつてその方式、趣旨により真正に成立したものと推定される甲第二四ないし第二六号証、当審証人菊池信雄の証言により成立を認める甲第二七号証の一ないし一九、第二八号証に当審証人菊池信雄、柿崎幸雄の各証言をあわせて考えると、本件係争地のうち前記一四九林班い小班について被控訴人主張の昭和三二年一二月一一日付仮処分決定に基き翌一二日同地内の立木の伐採等禁止の仮処分が執行されたが、控訴人はその後の昭和三三年八月八日から同月一二日までの間に本件係争地に立入り同地内に生立する被控訴人主張のとおりの数量、石数、価格の杉、楢、はんの木、桜、栗等の各立木合計二一〇本(二八八石、価格合計金二九万一一二六円相当を伐採し、そのうち被控訴人主張のとおりの杉、楢等合計二七石五斗五升(価格金三万四〇三〇円相当を残して、その余はいずれも他に搬出処分してしまつたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると前認定の控訴人による立木伐採の経過に徴すれば、特段の反証のない限り控訴人は右各立木をほしいままに伐採し、少くともそのうち計算上明らかな他に搬出処分した二六〇石四斗五升(価格金二五万七〇九六円相当)については過失によつてこれに対する被控訴人の所有権を侵害したものとみるほかはないから、控訴人に対し右相当価格金二五万七〇九六円の損害賠償とこれに対する不法行為の最後の日の翌日である昭和三三年八月一三日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求も正当であつて、これを認容すべきである。

三、前記一における認定事実に前出甲第二四ないし第二六号証と証人菊池信雄の証言を綜合すると、控訴人は昭和三二年一一月九日から同年一二月一一日までの間に前示伐採、搬出、処分した杉四四六石九升のほかに本件係争地のうち前記一四九林班い小班内に生立する杉一八〇石九斗四升、雑木三石および赤松六斗を伐採したが、これらは被控訴人主張の昭和三二年一二月一一日付仮処分決定によつてその主張の執行吏保管となつたうえ、昭和三三年五月一〇日被控訴人主張の換価命令により換価され、その代金二七万四〇六〇円(別紙供託金目録一)が供託されるに至つたことを認めることができ、また前出証人菊池信雄の証言により成立を認める甲第二八号証、いずれも公文書であつてその方式、趣旨により真正に成立したものと推定される甲第二九ないし第三三号証に右菊池証人の証言並びに当審における現場検証の結果をあわせて考えると、控訴人は昭和三七年七月一日から同月一二日までの間に本件係争地内に生立する杉一八八本(七六、三七立方米)、楢三本(〇、一八立方米)を伐採したが、これらも被控訴人主張の昭和三四年一一月一八日付仮処分決定によつてその主張のごとく執行吏保管になつていたのでその主張の換価命令によりその主張のごとくそれぞれ換価され、その各代金が別紙供託金目録二ないし四記載のように供託されたことを認めることができ、以上認定を動かすに足る証拠はない。そうすると本件係争地が被控訴人の所有であること前示のとおりである以上反証のない限り右伐採された立木はいずれも被控訴人の所有であるというべきであるから、その所有権に基いてそれらに代る物である右各供託金の引渡を控訴人(右各供託金の引渡請求権取得者)に対し求める被控訴人の請求は正当であつて、これを認容すべきである。

よつて原審における従前の請求に関し以上の認定と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴はその理由がないので、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従つて、主文のとおり判決する。

(裁判官 高井常太郎 上野正秋 新田圭一)

供託金目録

一、昭和三三年五月一〇日付杉丸太一七八石九斗四升、杉伐倒木二石、雑木三石および赤松六斗の換価処分による供託金二七万四、〇六〇円。

二、同三八年二月一二日付むつ市大字田名部字赤川吉川製材所における杉丸太六六石一斗二升の換価処分による供託金一九万五、二〇〇円。

三、同日甘むつ市大字関根字出戸むつ営林署出戸貯水場における杉丸太八一石八斗および楢丸太二斗三升の換価処分による供託金七万四、四五八円。

四、同三八年五月一四日付同所における杉丸太六七石六斗四升の換価処分による供託金五万三、四〇二円。

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